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渡英時のモバイル通信環境に関する備忘録

先日、Mercurial 3.6 Sprint で渡英した際に、現地でのモバイル通信環境を確保するために、事前調査した内容と、実際に現地で確保した通信環境を使用してみての感想を、備忘録代わりに公開しておきます。

前提条件

ロンドンのモバイル通信事情は、ネットの情報曰く「ホテルや観光地、各種店舗等で、フリーの WiFi アクセスポイントが利用可能」とのことなのですが、その一方で:

  • booking.com でのホテル評を見ると、「WiFi が繋がらない」旨のコメントを多数見かける
  • 公衆 WiFi の可用性(施設密度/回線速度等)が、イマイチ不明
  • 「ロビー等の共有スペースでのみ WiFi アクセス可能」なホテルもある

特に、今回の様な「不案内な外国での一人行動アリ」な状況の場合、現在地の確認等の必要性からも、「常時繋がる」環境を確保しておきたいところです。

国際ローミングは値段が高く、請求金額にビクビクしながら使うことになりますから、個人的には端から候補外です。ここは、現地で使えるデータ通信用 SIM を入手するのが良さそうです。

なお、今回の渡英では、手持ちの Nexus7 2013 を主軸にしたモバイル通信環境を構築しますが、Nexus7 は音声通話に対応していません。

IP 電話を使う手もありますが、ただでさえ電波事情の良くわからない土地で、「遅延が大きく会話しづらい」という評価の IP 電話を頼みの綱にするのは、少々心元ありません。特に今回のような一人旅の場合、「音声通話が必要になる状況」=「事故や急病等の緊急事態」ですから、確実なインフラを確保しておきたいところです。

幸いイギリスの通信事業者は、音声通話機能に絞り込んだ電話 + プリペイドプランも安価でラインナップしているので、今回は Nexus7 向けのデータ通信用 SIM に加えて、音声通話用電話 (+ SIM カード) も調達することにしました。

ちなみに、今回の渡英では、一週間の滞在期間のうち:

  • 前半はスプリント会場に缶詰なので、外出時やホテルでのちょっとした通信ができれば良い
  • 後半三日間は専ら観光なので、モバイルでのネット利用はこの期間に集中する

という感じで、実質的には三日+アルファ的な利用になるので、データ通信量は 1GB 程度もあれば大丈夫だと思われます。

事業者選び

通信事業者の選択肢としては、とりあえず「大手」ということで、以下の四社から選択することにしました。

今回の渡英での通信事業者に対する条件は、以下の二つです。

  • バンド 3 (1.8GHz) でのサービス提供を行っている
  • PC でのテザリングが (規約的にも) 可能

前者の条件に関しては、今回の渡欧で持って行く Nexus7 2013 が、それぞれ対応周波数が異なる「北米/日本向け」と「欧州向け」の2モデル構成となっていて、欧州の通信事業者がサービスを提供している周波数帯のうち、私の所持している「北米/日本向け」モデルで対応可能なものが、バンド 3 (1.8GHz) しかないためです。

Nexus7 と各事業者の対応周波数等に関して渡欧前の時点で調べた結果を掲載しておきます。

BANDNexus7 docomoEE02ThreeVodafone
US/JPモデルその他地区モデル
1 (2.1G) oo o - - - -
2 (1.9GHz) oo - - - - -
3 (1.8GHz) oo o o(*2)o(*4)o(*4)-
4 (1.7/2.1Ghz)oo - - - - -
5 (850MHz) oo - - - - -
7 (2.6GHz) -o - o o - o
13 (700MHz) o- - - - - -
17 (700MHz) o- - - - - -
19 (800MHz) -- o - - - -
20 (800MHz) -o - o(*3)o o o
21 (1.5GHz) -- o - - - -
28 (700MHz) -- o(*1)- - - -

この条件に合致するのは、EE, O2, Three です。

後者の条件に関しては、事前に払い込んだ費用分だけの、いわゆる「プリペイド制」で通信ができる Pay As You Go (PAYG と省略することも) プランの場合に、通信事業者によってはテザリングを許可していない場合があるためです。

スプリント会場であればネットアクセスの心配は不要ですが、テザリングができないと、ホテル滞在時の PC からのアクセスが厳しくなります。

また、国内の IT 系勉強会等で WiFi を解放する際には、HTTP/HTTPS 等のいわゆる well known ポート以外が塞がれているケースが多々あったりしますので、ホテルでの WiFi でも同様の対処が入っている可能性があります。外部からの攻撃を回避するために、自宅サーバへの SSH ログインはポート番号を変えていたりするので、この手の制限に阻止されることが多々あるんですよねぇ……

そういった事態を避けるためにも、テザリングで独立した通信環境を確保しておきたいところです。

この条件に合致するのは、EE と Vodafone です。

以上のことから、条件を満たす事業者は EE だけだったので、今回の渡英では、消去法で EE からの SIM 購入となりました。

事業者 バンド3可否 テザリング
EE o o
O2 o x
Three o x
Vodafone x o

プラン/製品選び

EE の PAYG プランの場合、通話/データ通信/ショートメッセージ(SMS)それぞれの利用可能量の比率違いで、複数の「パック」(pack) が用意されています。例えば、同じ 10 英国ポンド (GBP) でも:

パック名 通話時間(min) データ SMS
everything 150 500MB 無制限
talk & text 250 無し 無制限
data 50 1GB 50

上記のように、パック毎に利用できるサービス内容に差ができるわけです。

EE での課金は:

  1. SIM 購入時に、SIM 毎のアカウントが作成される
  2. アカウントにチャージ (top-up) する
  3. 選択したパックでの「有効期間経過」又は「利用上限超過」を契機に、アカウントからパック利用料が引き落とされる
  4. アカウントの残額が不足するか、明示的に利用を停止することで、以後の引き落とし+サービス提供が停止される
  5. 残額不足での停止したサービスは、アカウントへの top-up により再開可能

という流れになっています。

EE のサイトでは、アカウントの残額を "credit" と呼称しているので、最初は「クレジットカードとひも付け必須?」かと思ったのですが、あくまで「EE のアカウントにおける残額」の意味しかないみたいです (「クレジットカードから自動引き落とし」的なこともできるみたいではありますが……)

各パック毎に、SIM 購入時に初回チャージ下限額を支払えば、その後の credit 引き落としは自動的に実施されるので、その辺に関しては特に何もする必要は無い筈です。

今回のような「短期旅行での一時利用」の場合、「有効期間経過」(パックに応じて7日または30日)後に使用することはないですから、想定以上の利用で「利用上限超過」しなければ、再度渡英する機会までは、アカウントへの top-up が必要になることもないでしょう。そもそも EE の PAYG プランの場合、半年以上アクセスが無いと、アカウントごと SIM 自体が expire されるらしいので、渡英頻度が高くないのであれば、余計な top-up はしないでおいた方が良さそうです。

今回のケースだと、Nexus7 には "data" パック、音声通話用には "talk & text" パックが良さそうです。

また、音声通話用の電話に関しては、EE の直販においてラインナップされている Nokia 130 (GBP 4.99) あたりの機種で十分でしょう。

購入

回線の開通手続き等でのトラブルを避けたかったので、「通販購入〜国際配送での事前入手」とか、「空港自販機での購入」ではなく、店舗で直接購入することにしました。

ちなみに、EE の直営店は、店舗によっては 19:00 ぐらいで閉店してしまう所もあるみたいなので、STORE FINDER で営業時間や順路等を事前に確認しておいた方が良いでしょう。日本で言う「家電量販店」的なチェーン店も、早目に閉店する店舗が結構あるみたいです。

EE 直営店では、「客ごとに専属の担当が付いて、来店の要件が済むまで、担当者が掛かりきり」な販売方式らしく、担当者の手が空くまで、テーブル席で待つことになります。実際に店舗に入店した際は、「順番が来るまで席で待っていろ」(意訳)という英語を、何度か繰り返してもらってやっと理解するという体たらくだったため、席で待っている時間の心細いことといったらありませんでした(笑)

当初は、データ通信用に GBP 10 の data パック (1GB) を契約する予定だったのですが:

1GB のパックは無い(or お勧めできない?)ので、GBP 15 で 2GB のパックになる

旨の説明がありました。

GBP 5 ≒ JPY 1000 程度の差なので、まぁいいや、と承諾して購入したのですが、改めて確認してみたところ:

  • 支払い明細上は、MBB (Mobile Broad Band) device 向けの PRELOAD 2GB な PAYG プラン
  • SMS 経由で得たアカウント情報だと、データ通信可能量の情報のみで、通話/SMSの利用可能量に関する情報が無い
  • そもそも data パックには、「データ通信 2GB」がラインナップされていない

以上のことから総合するに、スマホ向けの "PAYG data パック" ではなく、通話機能の無いデバイス向けの "Free Mobile Broadband Pay as you go SIM" での契約になっていたみたいです。

こちらのプランだと、"DATA ADD-ON" という名称で、2GB のデータ通信サービスを GBP 15 で追加購入できるようになっているので、辻褄は合ってますね。

一方、音声通話用の SIM は、「"talk & text" パックで十分」という説明が上手くできずに、結局 "everything" パックでの契約になってしまいました。事前に印刷したプラン一覧に印を付けて持って行く、といった手を使った方が確実だったかも?

まぁ、後述するように、結局音声通話は使わなかったので、結局どちらのパックでも良かったんですけどね(笑)

音声通話用の電話に関しては、当初の予定通り Nokia 130 が購入できました。以下の写真は iPod classic との比較。

安いだけあって、SIM LOCK とのこと。まぁ、この値段ならしょうがないでしょう。むしろ、このチープ感がたまらない?(笑)

音声通話用の回線開通作業の際に、最初に持ってきた個体が初期不良で電源が入らないことが判明する、というトラブルはありましたが、新品交換の対応も素早かったです(伝票を切った後だったので、手続き的には一手間ありましたが……)。

今回の購入に要した費用は、総計 GBP 29.99 = 約 JPY 6,000、Nokia 130 を除いた通信費用だけなら GBP 25.0 = 約 JPY 5,000 といったところです。伝票上は SIM 自体は無料扱いになっていました。

品目 価格 (GBP)
データ通信向け SIM + 2GB ADD-ON 15.0
音声通話向け SIM + 初期 TOP-UP 10.0
Nokia 130 4.99

「売り切りがメイン」なプリペイド SIM であれば、通信料に SIM のコストも乗っている筈ですから、まぁまぁ妥当な値段なのではないでしょうか?IIJ mio のプリペイドプランなども、2GB/三ヶ月で 3,791 円 (2015-11-05 現在) ですし。

使用感

データ通信用 SIM に関しては、期待通りの働きをしてくれました。

特に、現在地の確認や、移動経路の入手は、完全に google map 様々でした。不慣れな土地で「迷子になる心配がない」というのは非常に心強いですね(笑)

今回確保した 2GB の転送量のうち、実際に使ったのは結局 1GB 以下 (700MB ぐらい) でした。

但し、冒頭の前提条件で述べたように、今回の渡英では、観光に使った後半三日間にモバイルでのネット利用が集中する、というかなり変則的な状況でした。もしも丸々一週間を観光に使える状況だとしたら、転送量は余裕を持って 2GB あった方が良い気がします。

そういう意味では、滞在期間を聞かれて「観光で一週間」と応えた私に、2GB の契約を推して来た店舗店員の判断は、なかなか良いところを突いていますね。1GB を個別に ADD-ON する (GBP 10 + GBP 10 = GBP 20) よりも、2GB の一括 ADD-ON (GBP 15) の方がお得ですし……

なお、渡英前に調べた際に、以下のように言及している数年前のブログエントリが見受けられました。

Nexus7 は、欧州圏におけるプラチナバンドであるバンド 20 (800MHz) に対応していない。ロンドン市内でのバンド 3 (1.8GHz) は、上手く電波を掴めないケースが多い。

さてここで、日本国内で Nexus7 を docomo (あるいはその MVNO)経由で利用した場合の状況について整理してみます。

  • 国内におけるプラチナバンドであるバンド 19 (800MHz) に対応していない
  • 利用可能なバンドは、バンド 1(2.1GHz) か 3(1.8GHz) のいずれか

現状での私個人の感想としては、docomo MVNO である IIJ mio 経由で利用した場合でも、屋内/屋外に関わらず、特に問題がありません。

仮に、「バンド 1 を使っているから電波を掴みやすい」のだとしても、理屈の上では、2.1GHz のバンド 1 と、1.8GHz のバンド 3 では、周波数の高いバンド 1 の方が、到達性では劣る筈です(遮蔽物の影響を受けやすい)。

つまり、バンド 1 の方が電波を掴みやすいのであれば、それは電波特性の差ではなく、運用方法(= アンテナ敷設密度等)の差でしょう。まぁ、「ある帯域を境に、回り込み効果よりも、反射効果の方が効いてくる」みたいな可能性もありますが…… バンド 1 とバンド 3 での電波特性の差についてご存知の方は、お知らせ頂けると助かります。

とりあえずここでは、英国でバンド 3 の電波を上手く掴めないケースがある(or あった)のは、周波数帯の特性と言うよりは、アクセスポイントのカバー範囲の問題ではないかと推測しました。

このことは、EE のバンド 3 (1.8GHz) 運用に関して、「人口カバレッジ 98%」の到達目標が 2014 年末となっている (= それ以前のカバー率が低かった) ことからも裏付けられます。

今回、実際に Nexus7 をバンド 3 で使用してみて、ロンドン市内で電波を掴めないケースはありませんでしたので、人口カバレッジ率が向上している(筈の) 2014 年末前後を境に、バンド 3 の使用感は全く異なった評価になる気がします。

以上のように、データ通信 SIM の満足度が非常に高かった一方、音声通話 SIM はちょっと微妙というか全然駄目でした。

  • 四日目ぐらいから「credit が足りないから SMS が使えない!」というテキストメッセージが頻々と届くようになる
  • しかし、この時点で音声通話/メールは一切使っていない
  • 無料で使える EE の内部サービス宛のもの以外は、SMS も使っていない
  • アカウント情報を確認してみても、一ヵ月間使えるパックがまだ有効
  • 音声通話を試してみたら、「credit が足りないから使えない」旨が表示される

現象発生以後、滞在期間中に EE 店舗に寄る時間的な余裕が無かったので、結局原因はわからず終いのままです。

店舗での回線開通作業の際に、開通通知用と思われる番号に掛けた記録が残っているけど、実は「EE 内部の通話扱い」だっただけだとかなのかなぁ?

回線開通直後に、誰かに国際電話でもかけて、通話回線の利用可否を確認しておいた方が良いのかもしれませんねぇ。

そうそう、Nokia 130 自体は、目覚ましアラームとして大いに役立ってくれました(笑)

振り返り

今になって思えば、以下の様な組み合わせの方が、トータルとしては安価に済むような気がしています。まぁ、今回は「勉強」ということで(笑)

  • データ通信は日常的に必要 ⇒ 現地 SIM を調達して使用
  • 音声通話は緊急時のみ必要 ⇒ 普段使いの docomo の携帯を国際ローミングで使用

また、今回は手持ちの機材である Nexus7 で賄うことを優先したのですが、SIM フリーなスマートフォンがあれば、データ通信用と音声通話用に個別の SIM を調達する必要も無い + 現地での国際ローミングの必要も無いので、より安価に済ませることができそうです。

EE のスマートフォン向け PAYG プランで、一週間程度の滞在であれば、データ通信量の必要性に応じて、以下のどちらかのパックで十分でしょうね。

パック名 価格 通話時間(min) データ SMS
data GBP 10 50 1GB 50
everything GBP 15 500 2GB 無制限

ただ、私自身は普段、Nexus7 をモバイルルータ扱い = テザリングを多用する使い方なので、バッテリー持ちの点でスマートフォンへの移行は、ちょっと不安なんですよねぇ。

それに加えて、Nexus7 の 7 インチ画面が、地図閲覧のようなケースで非常に便利でありながら、ギリギリ上着の内ポケットに入る(本当にギリギリですが……)という、絶妙なサイズ感を持っている点も、スマートフォンへの移行をためらう要因です。

そもそも、多くても年に一回行くか行かないかの海外渡航での、数千円の支出削減のために、数万円も払ってスマートフォンを新規に購入するというのは、物凄く本末転倒な気がしますし(笑)

ちなみに、不安のあった「ホテルでの WiFi 利用」は、思ったよりも使える感じでした。booking.com 上では「有料」記載のあったホテルでも、実際には事後請求無しで無料で使えましたし(笑)、おそらくは集客的な面で、「WiFi は無料」的な流れになってきているのではないでしょうか?